flowingな日々 短期連載 / その1 結縁《けちえん》

flowingな日々 短期連載
その1 結縁《けちえん》

2007年3月4日

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今年の京都の冬は、びっくりするぐらい暖かい。僕は夜、静かになった京都の裏道を散歩するのが好きなので、ありがたい。いや、京都に来ると街を歩きたくなるのは僕ばかりではないだろう。きっと多くの人が夜な夜な歩き、そう思っていることだろう。
 
僕と京都のかかわりは、大学生活の頃だから、もう35年ぐらいになる(と思うと驚いてしまうのだけど)。烏丸通りは同志社大学にかよう通りだったし、祇園祭りの鉾の巡行のエリアなので、よく知っている。でも、ふり返ってみて楽しいのは、僕が20代にあったこのあたりの店が、代がかわっても、今も多くあるということだ。もちろん時代の移り変わりの中で、コンビニができたり、チェーン店が進出したり様変わりしてゆく部分もあるが、「あり続ける、やり続ける」ということが、京都の商いの基本になっているのだろう。
 
僕は東京に移り住んで30年ぐらいになるけれど、結局、生涯にわたり東京と京都を往復し続ける生活を続けるのだろうなと思う。京都は僕にとって、美しいもの、美味しいもの、精神的な居場所、そのような快楽の場所である。その一方で東京は、うつろいゆく、いい意味でうわついている新しさ、自由という快楽の場所なのだ。
 
縁とは不思議なものだ。同志社にかよう時に毎日見ていた北國銀行を、自分の手でリノベーションすることになるなんて思ってもみなかった。東京へ行くことになった頃のこと、雪がひどく降った日に、あの建物を見たことを今もくっきりと憶えている。辰野金吾の設計によるレンガづくりの小ぶりな銀行。しかし、そこには、お金にまつわるいかめしさ、嫌味がない。逆に、大切なアクセサリーや何かを入れておく、きれいな小さなアンティークの箱のような面もちがある。
 
繁華街になってしまった河原町にくらべ、烏丸通りは、裏側に「糸へん」の街、室町をひかえていたせいもあったのが、商いの街、ビジネスの街として栄えた。古いものと新しさが同居しながら、すこしクールな顔をしていた。それが、この数年にわかに色めいてきた。かつての電電公社もリチャード・ロジャースがリノベーションした新風館、隈研吾のリノベーションによるKOKON KARASUMA。小学校を改築してできた国際マンガミュージアムもできたりした。そして、今度は北國銀行。僕はこの計画にあたり、大阪のgrafの服部君に相談した。
 
大切にしたいのは、“わたくし的”なおもてなしの感覚だ。そして、気の利いた小さな新しさへの挑戦の心である。烏丸通りに、きばった新しい建築物をまたひとつ造るのではなくて、風を通すこと。ふらりと足や気が向く居場所をつくること。京都という時間の中で、自分の現在地を体がしみじみ感じられる場所。
 
ちょうど地名が手洗水町《てあらいみずちょう》であり、近くに霊泉があるということもあって、フローイング、流れという名前を思いついた。それは、よいエネルギーの流れ、フローイング・グッド・エナジーということと関係している。
 
古来より、京の町屋は風通しに腐心してつくられたものだ。姿はくずさず、しかし、流れを大切にする。固定化するとダメになる。しかし、だらしないのはダメだ。京はそのような心で生きる場所だと思う。ほどよい距離感がなくなると、“すてき”ではなくなってしまうことを京の街は知っている。

 
結縁というコトバを御存知だろうか。「縁を結ぶ」ということ。フローイングという名の場所を構想した時、まず浮かんだのが、この結縁というコトバだ。縁とはいなものだ。エリック・ロメール風に言えば、「偶然の出会いが、必然になる」。
 
これからも京都にはたくさんの話題の店、そして名店がうまれてゆくだろう。そのような中で、フローイングはどんな場所なのか。僕はそれは「結縁」の場なのだと思う。人は、食やボディスタジオやスパなどにやってくる。フローイングは、五感をリフレッシュする場所だ。そんな、おもてなしの場でありたい。しかし、もっと深いところでは、縁を結ぶ場所なのではないか。明るく、開かれていながら、新しい関係がうみ続けられてゆく。

 
webなどでのヴァーチャルなネットワークはどんどん拡大してゆく。人は、web上で縁をむすぶ。でも、現実生活ではどこで縁を結ぶの? 服部君ともよく言うのだが、これから大切なのは「愛着」ということだと思う。「愛が着く」とは、なんとすごいコトバだろうか。

 
世界の中に、一つの居場所をつくります。皆も来てください。京都に新しい居場所が結ばれます。

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